上行寺 旭之祖師 日蓮宗 示迹山

上行寺ブログ

彫刻チャレンジ 最終話

▽前回までのお話はこちら▽
彫刻チャレンジ 第1話
彫刻チャレンジ 第2話
彫刻チャレンジ 第3話
彫刻チャレンジ 第4話

彫り直しを決意し、改めて刃を入れ始めた。

まずは鼻のみを残して全体的に彫っていく・・・
そうすると鼻部分だけが残る。
それを鼻になるように鼻の先端を残して少しずつ彫っていく。
既製品の大黒天と見比べながら、鼻と鼻筋を作っていった。
鼻と鼻筋が出来ると、次は額と目へ進む。
額は中央に比べて左右を少し彫ってなだらかにして輪郭を作る。

そして睫毛と目へ・・・
良くも悪くも目の出来具合で印象が変わる。
慎重に彫り進めた。
この頃になると彫刻刀ではなく、消しゴムはんこ用の彫刻ナイフで彫り進めていた。
彫刻刀よりも細かく彫れて使い勝手が良かった。

まずは睫毛から・・・
鼻筋の延長で、段差を作る。
眉毛側が少し低くなるように彫る。目側はほんの少し彫って目から眉毛に彫りが深くなるようにする。これが瞼になる。

睫毛や瞼が出来ると次は目へ・・・
大黒天は笑みを浮かべる表情が多い。
そこで笑って目が細くなっている表情を目指した。
もちろん目が開いていて瞳が見えるお顔でも良いのだが、技量不足の初心者にはハードルが高すぎる・・・
そんな事情もあり、睫毛を作った要領で目を彫り進めた。
鼻横の目頭は深く彫り、目尻は掘り幅を減らすことで目を表現してみた。
鼻筋からの凹凸でだいぶ“目らしく”なっていった。
 
正直なことを言えば、自分の中では“会心の出来栄え”といっても良いのでは!?と思うぐらい。
彫り直し前のお顔と比べると雲泥の差のように感じた。
 
そして口部分へ・・・
もともと口部分も鼻部分の次に高さを取って残しておいた。
上下の唇を作り、鼻筋からほうれい線(笑い皺)が出来るように彫っていく。
唇は丸みを付けることに大変苦労した。
と言うか、結局上唇が上手く彫れなかった・・・
鼻下から上唇の部分が上手く彫れず、上唇の真ん中が強調されるような感じになってしまった。
技量不足である・・・
修正を試みたが、下手に彫ると全体のバランスが崩れ、またやり直しにとなる恐れがあったのでこの程度に留めた。
下唇も作り、唇の下側を彫ってほうれい線に繋げて顎部分を作った。

顔の主要パーツが出来たことで、そのバランスを崩さぬように頬や輪郭を彫り進めた。
頭には頭巾を被っているので、それを表現する。
右耳は小槌に隠れている設定だが、左耳は作らねばならなかった。
既製品の大黒天では耳もある程度しっかりと彫ってあるのだが、初心者にはハードルが高い。
結局、左肩の袋の持ち手部分に耳が押されて前に出るような形で細かな彫りは入れずに表現した。
 
こうして顔部分を彫り終え、全体の修正をする。
また、俵部分を彫り進め、全てを彫り終えたのであった・・・
 

未熟な腕ではこれが限界だった・・・

既製品の大黒天と並べて・・・
色々と思うところがあり過ぎる。

大黒天を彫り終えると、次は筆入れ。
ここまで来れば完成まであと一息!
大黒天の頭部・腹・両肩・背中・袋・小槌・俵部分などに御首題・経文・願目などを書き入れる。また、枡にも書き入れる。

結局書き終えて完成したのは1月13日、大黒祭前々日だった・・・
 
前日は私1人でお経をあげ、大黒天の沐浴をした。
大黒祭当日の15日は、私を含めて3名で開眼をし、依頼主にお渡しした。
依頼主のNさんはとても喜んだ様子で大黒天を持ち帰り、家族にも報告して自身の住まいの玄関にお祀りしたと報告してくれました。
 
今回の依頼のお布施は、
制作・書き入れ・開眼祈祷の全て込みの《3万円》
でした。
 
お布施の金額は、1年前の居酒屋での会話の際に決まっていたので謹んでお預かりしました。
 
ちなみに、既製品の五合枡の大黒天の筆入れ&開眼も同じ金額です。
 
今回大黒祭に出仕してくれたD上人は、
「(3万円の)8回払いでしょ!」
と言いながら、
「自分なら絶対にやらん!」
としみじみ口にしていた・・・
 
正直な話、《3万円》は全く割に合わない一連の作業だったと思う。
もちろん、その3万円は自分の懐に入るわけではなく、寺の会計に入る。
もっと言えば、
電動彫刻刀を購入費、図面の参考書を借りた御礼や木材の御礼、五合枡の実費などを計算すると、経費だけで3分の2を超える・・・
その上で人件費を考えると、大赤字な訳です。

まとめ

そんな訳で、胃の痛い思いをして苦労したこの挑戦。
金銭的には・・・だったが、もちろん収穫や良かったことは多々ある。
 
1番は仏像彫刻を経験することが出来たことだ。
僧侶であっても仏像を彫る経験をすることはなかなか稀である。
持仏として彫ることはあっても、依頼を受けてその方の為に彫るという人はほとんどいないはず。
自分で彫って自分で開眼して依頼主がお祀りする。
仏師でもない素人の私が、こんな経験が出来るとは思ってもみなかった。
 
そして、自分自身について考えるきっかけとなったことも大きい。
信仰についてや自身の日頃の振る舞いについてなど、彫刻を通して考え直すきっかけとなった。
何をどう?と言われると、感覚的なことも含むので上手く言語化することが出来ない。
語彙力が足りない自分が残念だ・・・
 
角材を一から彫りだして仏像とする。
自分としては無謀とも思える挑戦が、自分を見つめ直す機会になったことは確かである。

最後に・・・

5話に分けて長々と綴ってきた訳だが、最後にこの質問に答えたいと思う。
 
「私の大黒天も彫ってもらえますか?」
 
答えは、、、
 
即答出来ない・・・
2体目を彫るのであれば、きっと今回の大黒天より上手に彫れるだろう。
それは今回の経験があるからだ。
ただ、
また胃が痛い思いをするとなると憂鬱なのだ。
 
もちろんそんな依頼が来るとは限らないので、いらぬ心配だとは思う。
もし本当にやるのであれば、お布施は考えます・・・
 
『彫刻チャレンジ』・完

追伸

5話に分けて大黒天彫刻の挑戦の過程を綴ってきました。
もしご質問などあれば気軽にお尋ね下さい!
 
当ブログではこれからもお寺にまつわる様々なことを発信していきます。
これからも当ブログをよろしくお願い致します

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